2015年5月26日火曜日

Break-up: ことばを噛み砕く

先日、流域管理プロジェクトで関わるとある村の人たちから、流域管理委員会(※1)で、共同管理する農地を耕したいので、開墾にかかる費用をサポートして欲しいという要望が上がっていた。
私がその村を訪れた際に、また村人たちは費用のサポートについて聞いてきたので、彼らが本気で開墾計画を立てているかを知るために、『耕すのにどれだけの費用がかかるのか』『土地の面積はどれくらいか』『何を植えたいか』『誰が作業をするのか』『(管理していくうえで)誰がどの役割を担うか』などを聞いていった。
結果、面積や植える作物は決めているものの、それ以外の部分は「みんなで作業する」「流域管理委員会が管理する」など、あいまいな回答ばかりで、口では「欲しい、欲しい」という割には「で、結局、誰が何するの?」というところは、何も話し合われていないことがわかった。

このように、村人も、私自身も、無意識のうちに、「みんな」「委員会」「ミーティング」「トレーニング(研修)」というような、あいまいな言葉を使っていることがある。例えば、「明日の研修について、ミーティングで村のみんなと共有した」と村人が言えば、なんとなく、「あぁ、研修のことは村の人たちに伝わっている」と思い込んでしまう。しかし、それをもう一つ噛み砕いて、「明日は何の研修だっけ?」と聞いてみると、他の村人に研修のことを伝えた本人も何の研修かよくわかっていないことや、「ミーティングには何人来たの?」と聞けば、実は4人しかいなかったなんてこともある。つまり、村人の回答を、もう一段階、二段階、三段階と、噛み砕いていかなければ、事実には到達できない。

村人が言った言葉を噛み砕くことの大切さに改めて気が付いたのは、前川さん(※2)とある村人との実に単純な、-しかし、私はずっと見落としていた-やりとりを見たからである。

「明日は9時に研修があると、みんなに伝えています。」という村人のことばに対して、私やフィールドスタッフは
「明日9時に来るから、時間通り集まってね」と言ってしまうところ、前川さんは
「明日は何の研修をするの?」

と、すぐさま『研修』という言葉を噛み砕いた。すると、実は村人たちには、私たちが意図したことが伝わっていないことがわかった。『研修』『ミーティング』などの曖昧な言葉を聞き逃すことなく噛み砕くことができる力、それが、ファシリテーターになるために必要なんだとわかった瞬間だった。


注意書き
※1 流域管理委員会=ムラのミライは2007年から、南インド、アンドラプラデッシュの農村で、流域管理事業を行っている。詳細はよもやま通信をご覧ください。
※2 前川さん=ムラのミライ海外事業チーフ。凄腕のファシリテーターで、本プロジェクトのプロジェクトマネージャー。

(インド事務所駐在員 實方博章

2015年5月19日火曜日

事実質問で変わった?姉弟の関係

私はムラのミライに出会うまで、「ファシリテーション」というものに触れたことがありませんでした。人とのコミュニケーションに関する勉強なども特にしたことがなく、対話型ファシリテーション基礎講座に初めて参加したときには、それまで自分がどれだけ人の話を聴いていなかったかということに気づき、ショックを受けました。特に、9歳離れた弟とは、本当に的外れなやり取りばかりをしていました…(トホホ)。

弟「最近、一つのことに集中できない気がする。失敗を恐れて、壁に当たる前に違うことに手をつけてしまう」
私「小さい頃からそうやったもんね~。失敗するのが嫌いで、ピアノを教えた時も、間違えるとすぐ機嫌が悪くなって諦めたりしてたよね。きっと人前で恥をかくのが嫌なんやろねぇ。」
弟「えええ、そうなん…!そうなんかなぁ…?」

悩み相談を受けるたびに、こちらの思い込みで答えるだけで、解決に至らないことが多くありました。

姉という立場では、ついつい自分の方が物事を知っていると思ってしまいます。私は、弟と同じ家や学校で過ごしてきたし、彼のことも生まれたときから見てきている。なので、彼が抱えている問題の解決策くらい知っていると、無意識に思い込んでいたのでしょう。

講座を受けた後には、色々とアドバイスをしたいとはやる心を落ち着け、なるべく事実質問をすることに徹しました。

弟「最近、学校の授業が退屈や。」
私「最近って、今日の授業で退屈なものがあった?」
弟「授業じゃなくて、今日はテストやったんやけど。」
(どの教科のテストがあったのか、結果を返してもらったテストはどの教科で、何点だったかなどを確認)
私「返ってきたテスト、お父さんかお母さんに見せた?」
弟「うん。○○の点数がよくないから頑張らなあかんなって言われた。テスト前にあんまり勉強してなかったからちゃうか、とか。それに、クラス全体の点数も悪かったから、先生も怒ってたし…。」
私「○○のテストの点数がよくないって言われたんやぁ。」
弟「点数だけで人を評価してるように感じるんや。前にも…。」
このあと、他にも学校で不満に思ったできごとを話してくれました。

さて、弟が不満に感じたこと、それを解決するには、これまた長~い対話の積み重ねが必要です。

ただ、意識的に事実質問を続けることは、私自身にも変化を及ぼしたようです。
最近では、「前はお姉ちゃんに話しかけて返ってくる言葉がおもしろくなかったけど、今は“深み”があるような気がする。言葉に説得力がある。」という評価をもらいました。

いったい以前はどれだけダメダメな姉だったのか…と反省させられるコメントですが、これからも対話型ファシリテーションを練習し続けていく励みにもなりました。
近藤姉弟のイメージ図 (フリー素材集より)
(海外事業コーディネーター 近藤美沙子

2015年5月12日火曜日

事実質問で広がる出会い in スリランカ

コホマダ?(シンハラ語で「どうですか?」)

以前(4/28)の記事には、JICAボランティアとしてスリランカで失敗したやり取りについて書きました。その後も、現場で「どうしたものかな」と思い、地域状況を改めて知ることに立ち返りました。

障害者の把握を現地の人たちと始めた当初、自営や会議に参加している人たちの姿が目立ちました。たとえば、ポリオによる肢体不自由のあるおばさんと出会いました。

私「これは何を作ってるんですか?」
おばさん「足ふきマットだよ。」
私「何が材料ですか?」「誰が取ってくるんですか?」
おばさん「バナナの木の部位を乾かして作ってるんだよ。ほれ、触ってみ。」「わたしゃ動けないから、そこにいる姉が取ってきてくれるの」
私「作ったもので何をするんですか?」
おばさん「姉に車椅子(手押しタイプ)を押してもらって、村を回って売るのよ。」
私「この一週間でどこで、何個売ったんですか?」
おばさん「○○と△△に売れたから、400ルピー。うふふ。」

まだファシリテーションとまでには至らなかったものの、「いつから」、「どこで習得したのか」など、事実質問を心がけながら状況を知っていきました。他にも、魚売り、ココナッツ取り、編み物、市場での野菜売り、宝くじ売り、日用品作りなどをする、様々な障害者と出会いました。

そのような状況把握や活動について、活動のパートナーである村役場の担当官とよく話をしてました。

私「この数ヶ月間、ミス(担当官の敬称)や住民ボランティアと障害者宅を回らせてもらって、たくさん学ばせてもらいました。自営やっている人も多いんですね。」
担当官「そうね、テル・マハッタヤー(テルさんの意味)。でも、貧しくて、ずっと家にいる人もたくさんいるのよね…。どうしたら良いかしらね。」
私「…この地図で言うと、どこの村は回り終え、どこの村をまだ回っていないんですか、ミス?」
担当官「そうねぇ(地図の上に印をつけていく)。こことここは奥地で、まだ住民ボランティアも登録できてなくて、私もまだ行けていないの。行かなきゃ。来週木曜に時間があるから行ってみましょうか、テル・マハッタヤー。」

彼女らと一緒に巡回すると、これまで知らなかった層の人たちと出会いました。座敷牢のような小屋に閉じ込められている人、鎖につながれた青年…。そして、家族に「なぜ?」とは聞かず、「いつから?」「何があったのですか?」などから聞くことが重要でした。思わず「なぜ」を聞いてしまい家族から“言い訳”を引き出してしまうこともありましたが…。

その後の活動は、またのお楽しみに!
巡回中の写真
(ボランティア 東田全央)

2015年5月5日火曜日

事実質問は過去形で

対話型ファシリテーションは、手法が単純なところに最大のメリットがあるのですが、その柱である簡単な事実質問を繋げるのはそう簡単でないのを、皆さん日々実感されていることでしょう。そこで、今回は、事実質問を繋げるための、ちょっとしたコツを改めてご紹介します。

ご存知のように、基礎講座では、参加者の「改めたい習慣」をめぐって練習します。横で聞いていると、事実質問ができなくて一般的な質問をしてしまう場面にたびたび出くわします。たとえば、ある方から「朝ごはんを食べないまま出かけてしまうことが多いので、その習慣を変えたい」という課題が提起されました。ほとんどの方は、講座で習ったように「今朝は朝食を食べましたか?」と聞き始めることができます。出て来た答えに基づいて、さらに次々と事実質問をしていくうちに、聞き手は「これは寝る時間が遅いため、朝起きられないことが原因ではないか」という仮説にたどり着いたようです。

ところが、次に出て来た質問は、「夜は何時に寝ますか?」という一般化された質問でした。相手は視線を宙にさまよわせながら、「遅いことが多いですね」としぶしぶ答えました。そこからは、「もっと早く寝れば、朝余裕が持てるかもしれない」という聞き手の仮説に迎合するような方向にやり取りが進んでいきました。結局、自分で気付いてもらう前に、こちらの思い込みを相手に押し付けるパターンに入ってしまったわけです。典型的な思い込み質問の罠にはまったケースです。本来は、「前の日の夜は、何時に寝ましたか?」と事実質問をしなければならないのですが、自分の仮説に囚われてしまうと、それがなかなか出て来なかったのです。

では、これを避けるためには、どうすればいいのでしょう。一番覚えやすいコツは、「相手の行動に関する質問をする場合は、常に、『過去形で聞く』ように心がける」ということです。よく考えてみれば、事実は、今現在、あるいは過去のことですよね。とはいえ、現在形の質問は、過去形に比べると本当に事実質問かどうかの判断が難しいのです。

「When=いつ」質問の有効性は、講座などでも口酸っぱく言ってきました。それに加えて、この「過去形の質問へのこだわり」を念頭に置いて質問するよう心がけることで、事実質問に徹することがより容易になるはずです。例えば海外協力の現場で、「農薬はどんなものを使いますか?」ではなく、「どんな農薬を使いましたか?」と聞けるようになれば、地に足の着いたやり取りが続けられます。

実を言えば、このコツが言語化できたのは、つい数か月前で、ここ数回の基礎講座に出られた方にはお伝えすることができたのですが、それ以前の方には、こういう形でお示しすることができていません。「事実質問は過去形で」と心の中で唱えながら、ことに臨むことを強くお勧めする次第です。

(ムラのミライ共同代表 中田豊一